Pippiの「教えて!プログレ先生」

第1回:カフェ・フライングティーポット店主・目黒 子さん

プログレに興味のある若い人も、すでにプログレにどっぷり浸かって何十年の人もぜひ読んで、知っていただきたい!田園企画の新連載。

田園のボーカルPippiが毎回「プログレ賢人」たちの元を訪れ、それぞれのお人柄やプログレ愛についてインタビューする、裏・プログレ・ガイド。

これを読んで関心を持ったら、ぜひ賢人たちの元に足を運んでいただきたい!そんな思いで始める、記念すべき第1回は江古田の「カフェ・フライング・ティーポット」のマスター、目黒 子(めぐろ しげる)さんにご登場いただきます。

●映画音楽が好きだった少年時代

目黒(以下 目):北海道出身です。けっこうでも北海道出身の人は多いですよね、北海道の人ってあんまり土地に執着心がないのか、

Pippi(以下 P):歴史的にも開拓して人が移り住んでっていう。

目:そうですよね、だいたい東北出身の人とか。僕のルーツ見たらやっぱり目黒区なんですよ。目黒不動っていう・・・お不動さんあるじゃないですか。江戸時代、もっと昔からかな、目白、目赤、目黒・・5色ぐらいあるんですよ。

P:それで目黒さんっていう姓になられたのかなあ。

目:意外に目黒っていう名字の人、ありそうでそんなになくて。

P:そうなんですね。・・・私はまったくミーハーに生まれ育って、一般的なロックは聴いてきたけれど、プログレというのは初めてぐらいなので・・。(目黒さんは)生まれ育ってきて、いきなりプログレを好きだってことになったりというのは、あんまりならないと思うんですね。きっかけというか、音楽の目覚めというのはテレビとかラジオ、歌謡曲みたいなのは。

目:いや、歌謡曲は聴かないんです。なぜかね、トラウマみたいなのがあるのかもしれない。子どものころ、歌謡番組とかいっぱいあるじゃないですか、美空ひばりだのの時代。だけど、歌謡曲の番組ちゃんと見たことないんです。なぜか見てると眠くなって。見てられなくて。なんでかなと思って。うちの両親は社交ダンスの先生をやってて家にいなかったりして、夏休みになると親戚の家に預けられたりするじゃないですか。そこの家の娘さん、いとこがちょっと年上だからグループサウンズとかの歌謡番組見てるんですよ。その当時の女の子ってフォーリーブスとかスパイダースとかかな、テレビの前でキャーって叫んでるんですよ(笑)。

P:私ももしかしたら似たような子ども時代(笑)。

目:子どもだから、見たいものあるけど絶対見せてくれないじゃないですか、チャンネル権もないので。だからもうつまんなくて。それがたぶんトラウマなんです。そのお姉ちゃんたちの様子も子どもからしていかがなものかなと(笑)。恐ろしいっていうか(笑)。ウルトラマンみたいなの見たいのに、たぶんそういうことがあって嫌いになったんじゃないかなと。・・・映画は好きで、映画音楽ですよ。映画音楽って変な音楽じゃないですか、シンセサイザーとか使うし。ラジオで映画音楽特集とかやってるんですよ。それを録音して聴いたりとか。あとクラシック。うちの両親、親父がクラシック好きで、クラシックのレコードがあったりとか。ダンスの先生なんで、有名なダンスの曲、レコードは聴いたりしてました、そんなに好きではないですけど。

P:家が元々音楽に馴染みがある環境ではあったんですね。

目:そうそうそうそう。

P:今だとネットでなんでも調べればわかったような気になっちゃうと思うんですけど、当時だと情報源は・・・。

目:同じぐらいの年齢の音楽やってる人とか、映画音楽とか。映画よく見てたよね、当時はビデオないので、「~洋画劇場」見ないと。で、ああ、この音楽いいなあとか、そんな話を中学校ぐらいのころにしてたね。

あと、イージーリスニング流行ってました、ポール・モーリアとかレーモン・ルフェーブルとか聴いてたりとか。

P:オリーブの首飾り。

目:うん。で、友だちの家に行くとお兄ちゃんがいるとボブ・ディランとかピーター・ポール&マリーとかベンチャーズとかのレコードがあって。そんなの聴いたりして。

中学校のころにステレオとか買ってもらったりして、ちょっとジャズっぽいのを聴いたり。

P:えっ中学生でもうジャズとかですか。

目:当時はロックよりジャズのほうが入りやすかったんですよ。安いレコードとか売ってるし、あちこちで「ミスティ」(※1)とかかかってるんですよ。イージーリスニングですよジャズは。ラジオとか聴くと渡辺貞夫の番組とかやってたり。クロスオーバー・ブームってのがあってボブ・ジェームス(※2)。

あとはビートルズが解散するころで、ビートルズがラジオでやたらとかかってたんです。「レット・イット・ビー」とか。あとはロックも耳にしてはいたんですよ、エマーソン、レイク&パーマー(※3)とかピンク・フロイドの「ワン・オブ・ディーズ・デイズ(邦題:吹けよ風、呼べよ嵐)」(※4)とか、曲名とかは知らないですけど。

当時は映画音楽がヒットチャートの上のほうにいた(時代)なんですよ。

P:(ロックも映画音楽も)同じような括りだったっていう。ということは特にプログレだから、とかいうよりは全体で洋楽邦楽っていう。

●プログレという言葉は日本発祥

P:プログレッシブ・ロックっていう言葉(の起源)は・・・。

目:ないです。よく学生とか若い人から、プログレってなんですか?って訊かれるので、実はプログレってないんじゃないの、っていう話をするんです。いろんな説があるんですよ。僕らがピンク・フロイドとかを聴き始めたころは(レコード屋に)プログレのコーナーなんてなくて、ロックのコーナー(しかなかった)。

P:ああ、そういう感じで。

目:ピンク・フロイドもレインボー(※5)もみんなロックの範疇に入ってて。で、まあジャケ買いですね。レコード屋さんに行ってはジャケット見て、なんだろ、この赤い顔面の(笑)キング・クリムゾン(※6)って書いてあるぞって。

P:すごいインパクトが(笑)。

目:最初に意識して買ったロックのアルバムはピンク・フロイドの「炎」(※7)。高校1年生ぐらいかな、1975年。その頃になると友だちもロック聴いてるので、自分もなんか聴いてみたいなあと思うようになって。その頃にアルバムが出て。かっこいいディスプレイが、ジャケットの燃えてる男が握手してる等身大のやつがレコード屋に置いてあって。ヒプノシス(※8)のデザインがかっこいいじゃないですか。ジャケットが紺色のビニールでパッキングされてて中が見えないようになってて。それがバーッと(レコード屋の壁に)並んでるんです。夏の頃で。かっこいいなあ、じゃこれ買ってみようってなったんです。

P:前知識とかないでジャケットで。

目:かっこよさから。そしたら(聴いてみたら)あれですよ(笑)。シンセサイザーが好きだったんで、(帯に)シンセ云々っていう煽り文句もあったし。レコードかけるとずっとボーカルが出てこない(笑)ビートルズとは違う。

P:ありきたりのエイトビートとかとは違うのが新鮮で。

目:かっこいいですよね。・・・プログレって言葉ですけど、ピンク・フロイドの「原子心母」(※9)が出た時に東芝のプロデューサー(※10)が他のロックと差別化したいので、レコード帯にプログレッシブって言葉を付けたっていうのが定説で。

P:もしかしたら日本発祥?

目:そうです。

P:海外でも今Prog Rockって言われてる・・・。

目:そうなんですよ。プログレッシブ・ロックのコーナーができはじめたのはたぶんCDの時代からですよ。・・・エピソードがあって、キャメル(※11)というプログレ・バンドが来日した時のインタビュー記事を読んでて、あなたたちの音楽はプログレッシブって呼ばれてるんですけど、どうなんですかって(聞かれたメンバーが)、ああそうですか、でも自分たちの音楽はプログレッシブっていうことではなくてって(笑)ちゃんと言ってて、自分が思うプログレッシブっていうのはブライアン・イーノ(※12)のことじゃないですかって話をしてた(笑)。

P:捉え方が。

目:試みがあって実験的なことをやってる。

●ワールドディスクの中島さん

目:・・・マーキーっていうプログレッシブ雑誌作ってるマーキー・ムーンっていう会社が始めたレコード屋さんがワールド・ディスク、目白にあるんですけど行ったことあります?

P:ちょっとそこは・・・。

目:店長が中島さんっていう人で、よく知ってます。そんなに会えないですけど、20年以上の知り合い。フライングティーポットに行ったら、ぜひ行けって言われたって(笑)。

P:じゃ目黒さんのご紹介ってことで(笑)

(次回お伺いします!!!)


(インタビュー日時:2019年10月5日、場所:東京都練馬区江古田 カフェ・フライング・ティーポット)

カフェ・フライングティーポット

東京都練馬区栄町27-7榎本ビルB1

03-5999-7971

11:00-22:00 火曜日定休

https://flyingteapot1997.wixsite.com/ekoda-flying-teapot

<第2回に続く>

<注釈>

※1 「ミスティ」

https://www.youtube.com/watch?v=P_tAU3GM9XI

※2 ボブ・ジェームス

アメリカミズーリ州生まれのピアニスト、音楽プロデューサー、作曲家、編曲家。ジャズ・フュージョンおよびアダルト・コンテンポラリー界を代表するアーティストの一人。

※3 エマーソン、レイク&パーマー

キース・エマーソン、グレッグ・レイク、カール・パーマーの3人により、1970年に結成されたイギリスのプログレッシブ・ロックバンド。英語圏では「ELP」の略称で呼ばれることもある。

※4ピンク・フロイド「One Of These Days」

https://www.youtube.com/watch?v=mzG6Gsi92ww

※5 レインボー

イングランド出身のロックバンド。元ディープ・パープルのギタリスト リッチー・ブラックモアが率いている事で知られる

※6 キング・クリムゾン

イングランド出身のプログレッシブ・ロックバンド。同分野で重要な位置に格付けられているグループの一つ。

※7 ピンク・フロイド『炎』 1975年に発表されたピンク・フロイドのアルバム。全英・全米第1位という大ヒットを記録した。

※8 ヒプノシス

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%97%E3%83%8E%E3%82%B7%E3%82%B9

※9 ピンク・フロイド『原子心母』1970年に発表されたピンク・フロイドのアルバム。

※10東芝のプロデューサー 石坂敬一氏のことと思われる。名物ディレクターとして名を知られ、洋楽制作部時代にはザ・ビートルズやピンク・フロイドを手がけた。

※11キャメル

イングランド出身のプログレッシブ・ロックバンド。数ある同系列バンドの中でも叙情派のサウンドで知られる。

※12ブライアン・イーノ

イギリス・サフォーク州のウッドブリッジ出身の音楽家。作曲家、プロデューサー、音楽理論家である。「アンビエント・ミュージック(環境音楽)」の先駆者として知られている。