Pippiの「教えて!プログレ先生」

第2回:カフェ・フライングティーポット店主・目黒 子さん

プログレに興味のある若い人も、すでにプログレにどっぷり浸かって何十年の人もぜひ読んで、知っていただきたい!田園企画の新連載。

田園のボーカルPippiが毎回「プログレ賢人」たちの元を訪れ、それぞれのお人柄やプログレ愛についてインタビューする、裏・プログレ・ガイド。

これを読んで関心を持ったら、ぜひ賢人たちの元に足を運んでいただきたい!そんな思いで始める、江古田の「カフェ・フライング・ティーポット」のマスター、目黒 子(めぐろ しげる)さんへのインタビューの第2回です。

●音楽だけじゃなくいろんなものが好き

P:中高生で音楽にふれると、聴くのも楽しいんですけども、自分で演ってみようっていうことはなかった?

:それはね、音楽だけが好きだったらね、俺もロックやりたいとかなるでしょうけど、集中力がないので(笑)、いろんなものが好きすぎて映画も好きだし、本を読むのも好きだし。

「高校生ぐらいの頃、吉祥寺のジャズ喫茶に行くと、そこにいるお客さんがマウンティングしてくるんですよ(笑)。そういう人間にはならないようにしようと」

●お店を始めたころ

P:お店を始められたのは。

:1997年、22年、もうすぐ23年になります。

P:私、すごくいいなと思ったのが、音楽的にはマニアックなんだけれども駅前の商店街の中にあって、間口広いっていうか、プログレ聴いてるお客さんじゃなくっても。

:全然関係ないです、そのへんは自分の趣味で一応プログレやりますよって書いてあるけど、爆音でかけない会話できるぐらいの。ときおり誰もいないときに爆音でかけることありますけど(笑)。

P:クラシック喫茶だと私語禁止、黙って俺がかけるのを聴けみたいな、そんなスタンスじゃない。

:・・・昔、高校生ぐらいの頃、ジャズ喫茶、行くわけですよ。吉祥寺のジャズ喫茶に行くと、そこにいるお客さんがマウンティングしてくるんですよ(笑)。いやな思いをして帰ってくるわけですよ、いやだなあ、あのおじさんたちはって(笑)お茶の水あたりの別の店に行ってもそこにもいるんですよ。そういう人間にはならないようにしようと(笑)。

P:お店でもいろいろな方がライブとかされていて。前にゴング(※1)の・・・

:デヴィッド・アレン(※2)。彼はここでライブをやってくれる予定だったんですけれど、残念ながらその前に病気になって亡くなってしまったんで。まあ、ここのことは知っててくれたんで。

ただ彼の友人、キャラヴァン(※3)のリチャード・シンクレア(※4)とかデヴィッド・シンクレア(※5)は来てくれて、演奏してくれたりとか。ヘンリー・カウ(※6)のクリス・カトラー(※7)とかジェフ・リー(※8)とかも演奏してくれてるし、まあ(お店を)やっててよかったなあと。

P:日本でもプログレとカテゴライズされているミュージシャンがいますけど、日本と海外のプログレの音楽の違いってありますか?

:どうですかね、そんなことはないかもしれないですね。そこそこ交流があったりとか。こないだもマグマ(※9)が来て(来日コンサート)に吉田達也さん(※10)がマグマ好きで。

あと何回かここにも来てくれている武田理沙(※11)っていう女性キーボードがいまして、彼女は今2枚目のソロ・アルバム制作中で、非常に優秀なキーボーディストでフランク・ザッパ(※12)のカバーやったりとか。

勝井祐二さん(※13)はゴングに参加していることもあって、スティーヴ・ヒレッジ(※14)のシステム7(※15)とROVO(※16)でいっしょに演ったりとかしてますね。去年ひさしぶりに勝井さんがライブしに来てくれて。

店内にはライブスペースがある

●プログレはヨーロッパの音楽

P:私は全然プログレっていうのを知らないできてたんですけど、たまたまブルガリア民謡で7拍子とか変拍子がいいなって音楽のお友だちと話をしてたら、たまたま吉田達也さんとか鬼怒無月さん(※17)といっしょにやってる人が知り合いがいて、こういうのがあるんだよ面白いよって言われたのがたぶん自分の中ではプログレ的なものに触れたきっかけだったのかなと思ったんですけど。

:ヨーロッパ、独特ですよね。トラッドとかって変な拍子じゃないですか、たぶんダンスをするために、トリッキーなステップを踏むじゃないですか、スウェーデンとかは面白い音楽がいっぱいあるし。アメリカはないじゃないですか、アフリカ音楽から来た、4ビートから来た、8ビート化した、ロックンロールのロック。ロックンロールがヒットして、ヨーロッパのほうに来てビートルズがたぶんロックを完成したんじゃないですかね。

あの人たちは当時のヨーロッパの状況を考えると学生運動とかアート運動(※18)とか盛んになるじゃないですか。現代美術とか現代音楽とか。ビートルズも最初はロックンロールをやってたけど、そのうちにいろんな芸術家と交流すると、どんどんそれに触発されていろんなものを取れ入れてきた。

(ヨーロッパの音楽は)ヒネリが効いてるんですよ。もうこれロックなの?っていう。ロックのジャンルで出されてるアルバムで。でもロックじゃん、電子音楽だったりするわけですよ、タンジェリン・ドリーム(※19)の初期とか。これは現代音楽っぽいけどとか。ヴァージン・レコード(※20)の第1作めが「チューブラー・ベルズ」(※21)っていうマイク・オールドフィールド(※22)のアルバムなんですけども。あれもロックとして聴ける、まあロックンロールのロックじゃないですね。

ヴァージンの初期アイテムはすごく面白い、あんまり売れなかったですけどもね。マイク・オールドフィールドのファースト・アルバムはすごい売れたみたいですけど。「チューブラー・ベルズ」って「エクソシスト」の音楽みたいになっちゃってますけど、ちゃんとあのレコードを聴くと、全然そういうイメージがない、たぶんイギリス民謡みたいのを元にして作られた音楽なんだなあっていうのが。あの人からですよね、ケルト系の音楽をロックミュージックに入れたのは。

店名にもなった「ゴング/フライングティーポット」目黒さん所有のCD

●カフェ・フライングティーポットについて

P:「フライングティーポット」っていうお店の名前は・・・?

:これはデヴィッド・アレンのゴングってバンドの3枚目かな、(棚からアルバムを出して見せてもらいつつ)本人がイラスト書いてます。

P:かわいい。

:みんなお話になってます、宇宙人が乗ってて。歌の中で、当時UFOって言葉がなかったんですよ。

P:フライング・ソーサー。

:そう、空飛ぶ円盤。その歌の中でフライング・ソーサーが飛んできて、その後にフライング・ティーカップが飛んできて、最後にフライング・ティーポットが飛んでくるよ、みたいなね、歌になってるんですよ(笑)で、お店始める時に名前考えるじゃないですか、ピンク・フロイドが好きだから、でも「ウマグマ」(※23)って名前にしたら、何のお店だかわからないし。

P:喫茶店だから、ちょうどいいんだティーポット。

:僕がデヴィッド・アレン非常に好きなんで、フライングティーポットだったら、知らない人でもここ来ればお茶飲めるんじゃないかなあみたいなね。

P:そのためにあるような、うってつけの名前だったんですね。

:いろいろ考えましたよ、イーノが好きだから「アナザー・グリーン・ワールド」(※24)とかね(笑)長いからだめだね(笑)。お店が地下にあるから、キャラヴァンの「9フィートアンダーグラウンド」(※25)とか、ちょっとそれも覚えらんねえなあとか(笑)。

P:お店をやろうっていうきっかけとなった出来事はありますか?

:出来事はないですけど・・・まあある意味この町は地元みたいになってて、昔はロック喫茶とか音楽聴けるとこいっぱいあって、当時若者だったんで、集まってグダグダしてなんかやろうっていう場所あったんですけど、90年代になって無くなっちゃったんですよね。で、そういう場所作りたいなと思って。会社勤めも合わないなと。じゃあなんかやろうと。1年ちょっとくらいいろんな場所探して。他(賃料が)高いんですよ、高円寺にしても下北沢にしても。たまたま江古田も見てて、ここ空いてたんです

最初家賃も高い提示があったんで不動産屋に話してみようかと。地元だし、地下だからお客さんも入りにくいかもしれないからって。ちょっと音出しても大丈夫って。江古田は音出しても大丈夫な町なんですよ。その頃はライブとかやってなかったんです。

P:最初は純粋に喫茶店で音楽かけてた。

:ただね、こういう町なんで、だれかが何かやりに来るだろうなあっていうのは(感じてた)。そういう場所を作りたかったので。壁は、日大芸術学部が近くにあるので展示出来るようにして。ライブをやるような機材は一切なかったんです。みんなアンプ持ってきたり。最初は月1回やってるかやってないかぐらいでしたね。芝居をやる人とか朗読の会をやる人とか。上映会はその頃からのつきあいでもう20年以上やってますけど。

P:上映もやるんだ。スクリーンもありますね。

:日芸出身の人がその上映会に参加したり、けっこうね、その後監督さんになったり。さすが日芸だけあって監督で商売にしてる人が何人かね。

P:ここで目黒さんがなんでもありなお店を開いてくれたおかげで場が出来て、いろんな交流も生まれてっていう、いいですよね。

(インタビュー日時:2019年10月5日、場所:東京都練馬区江古田 カフェ・フライング・ティーポット)

カフェ・フライングティーポット

東京都練馬区栄町27-7榎本ビルB1

03-5999-7971

11:00-22:00 火曜日定休

https://flyingteapot1997.wixsite.com/ekoda-flying-teapot

<第3回に続く>

※1 ゴング

フランスを拠点とするプログレッシブ / スペース・ロックバンド。元「ソフト・マシーン」のデヴィッド・アレンを主宰に結成。

※2 デヴィッド・アレン

ゴングの創設者、主宰。

※3 キャラヴァン

イングランド出身のプログレッシブ・ロック・バンド。「ソフト・マシーン」と共にカンタベリー・ミュージックの礎を築いたグループとして知られる。

※4 リチャード・シンクレア

イングランドのプログレッシブ・ロック・ベーシスト、ギタリスト、そしてボーカリスト。キャラヴァン、ハットフィールド&ザ・ノース、キャメルなどに在籍。

※5 デヴィッド・シンクレア

キャラヴァンのキーボーディスト。

※6 ヘンリー・カウ

1968年にイギリスで結成された前衛的なロックバンド。

※7 クリス・カトラー

ヘンリー・カウのドラマー。

※8 ジェフ・リー

ヘンリー・カウのサックス、フルート、クラリネット奏者。

※9 マグマ

フランス出身のプログレッシブ・ロックバンド。

※10吉田達也

日本のプログレッシブ・ロックバンド、ルインズや高円寺百景に在籍するドラマー、作曲家。多彩な活動で知られる。

※11武田理沙 https://www.risatakeda.com/

※12フランク・ザッパ

アメリカ合衆国出身の作曲家、編曲家、前衛ロック・ミュージシャン、シンガーソングライター、ギタリスト。

※13勝井祐二

日本の即興音楽シーンにおける数少ないエレクトリック・ヴァイオリン奏者。

※14スティーヴ・ヒレッジ

イギリスのギタリスト。一般的にはソロ活動、ゴングやシステム7といったグループのメンバーとして知られている。

※15システム7

スティーヴ・ヒレッジとその妻であるミケット・ジローディによって結成されたテクノ、トランス、アンビエントユニット。

※16 ROVO

勝井祐二氏率いるバンド。

※17鬼怒無月

日本のギタリスト、作曲家、プロデューサー。プログレッシブ・ロックに強い影響を受けているが、幅広いジャンルの音楽を演奏している。

※18アート運動

特定の共通した芸術哲学や目標を持った芸術の傾向・スタイル。

※19タンジェリン・ドリーム

ドイツ出身の電子音楽グループ。

※20ヴァージン・レコード

イギリスのレコードレーベル。創業者はリチャード・ブランソン。

※21チューブラー・ベルズ

マイク・オールドフィールドが1973年に発表したソロ・アルバム。オールドフィールドとしては初の作品で、当時新興レーベルであったヴァージン・レコードの第1回新譜として発売された。1974年10月5日付で、全英1位に達した。

※22マイク・オールドフィールド

イギリスのミュージシャン。デビューアルバム『チューブラー・ベルズ』や1983年のシングル「ムーンライト・シャドウ」のヒットで世界的に知られる。

※23『ウマグマ』

1969年に発表されたピンク・フロイドの2枚組アルバム。

※24『アナザー・グリーン・ワールド』

ブライアン・イーノが1975年に発表した、ソロ名義では3作目のスタジオ・アルバム。

※25「9フィート・アンダーグラウンド」https://www.youtube.com/watch?v=O1cAZbw_gbY