Pippiの「教えて!プログレ先生」

第5回:WORLD DISQUE店長・中島 俊也さん

プログレに興味のある若い人も、すでにプログレにどっぷり浸かって何十年の人もぜひ読んで、知っていただきたい!田園企画の連載。

田園のヴォーカルPippiが毎回「プログレ賢人」たちの元を訪れ、それぞれのお人柄やプログレ愛についてインタビューする、裏・プログレ・ガイド。これを読んで関心を持ったら、ぜひ賢人たちの元に足を運んでいただきたい!その第2弾は東京・目白の創業30年を越える、プログレッシヴ・ロック、ユーロ・ロックの老舗専門店「WORLD DISQUE」の店長、中島 俊也さんにご登場いただきます。

●バンド経験

Pippi:中島さんは豊かな音楽環境で、自分で演奏してみようかなっていう方向にはまったく行かなかったんでしょうか?

中島:恥ずかしながら、バンドはやってました。

P:やっぱりそうですよね。

中:遊びなんですけどね、ただ、メタルです。プログレではなかった。

P:演奏して気持ちいいのと、聴いて気持ちいいのとまた違いますよね。

中:学祭とか公共の文化祭とかで、オリジナルもやってたんですけど、別のバンドでメタリカ(※38)のコピーとかやってました。超難しいんですけど、全然ヘタっぴで、全然ダメダメでしたけど(笑)。

P:それはギターで。

中:いや、ヴォーカルです。ギターは挫折したので。オリジナルのバンドではヴォーカルのみで、メタリカのほうもヴォーカルのみで、ギターは別に2人いました。大学時代までオリジナルのバンドはやってたんですけど、ジェネシスのピーガブ・コスプレ(※39)みたいのして(笑)今はもう恥ずかしくて(表には)出せないんですけど(笑)幾何学面とかウォッチャーの翼のやつとか頭に付けたりして90年代初期にライヴやってました。まあ遊びですけどね。

「1992年、大きいサイズだった頃の「マーキー」を読んでたおかげで、プログレへの興味をつなげていくことが出来た」

(写真は当時の雑誌)

●本格的にプログレの沼へ

中:大学に入ってから、プログレ・オンリーになっちゃって。メタルが90年代以降変わっちゃったじゃないですか、オルタナ(※40)とかグランジ(※41)とか出てきて。自分の興味がプログレに移行しちゃったっていうのもあるんですけど。

92年、大きいサイズだった頃の「マーキー」とか読んでたおかげで、プログレへの興味をつなげていくことが出来たっていう。カンタベリー系(※42)、ヘンリー・カウ(※43)とかキャラヴァンとかハットフィールド(※44)とかマグマ(※45)とか、プログレの中でもコアなところを聴き始めて、いいなって思えるようになったのが大きかったですね。そこに行かなかったら(プログレの探求も)止まっちゃってたかなと。沼にハマる、深堀りするきっかけになったのは、「マーキー」のマグマ特集で。

「本で紹介してるディスクが手に入らないんですけど」っていう読者の声に答えて。80年代に「マーキー・ムーン」が通販をやり始めたんです。

●WORLD DISQUEと中島さんの関係

中:(WORLD DISQUE)店自体は80年代に「マーキー・ムーン」が通販をやり始めたんですね。「本で紹介してるディスクが手に入らないんですけど」っていう読者の声があって。

P:私もさっき雑誌見てて思ったんです。みんなどうやってレコード買ってたんだろうって。

中:じゃ、もう仕入れますから買ってくださいって感じで。1983~84年からだったと思うんですけど。で、ショップを出店したのは1987年。マーキーの歴史。

P:ほんとだ。

中:レコード・ショップとして4月11日オープン。当時はSYビルっていう目白から遠いところだったんですけど、今の店舗の半分ぐらいの広さ、すごく狭くて。ユニットバスのところに雑誌とか在庫突っ込んで(笑)バック・ルームと称していた(笑)。その時に店長として入ってきたのが松本昌幸さんという現「マーキー」の編集長なんですよ。松本さんは今も雑誌としての「マーキー」の編集長で、現在は編集方針が変わってプログレの雑誌ではなくなってるので、事務所も別になってるんですけど。

P:今は内容違いますよね。

中:さっき話してた僕とあまり仲の良くなかった友だちが「WORLD DISQUE」でレコード買ってきたよって。で、(松本さんは)知ってましたね、その人のこと。あ、〇〇くんの友だちなの?って(笑)。そうなんです同じ高校で、って。

P:よく店に来るよって。

中:僕も「WORLD DISQUE」何回も密かに来てたんですけど、当時は新宿方面に行く機会の方が多くて。今は無くなっちゃいましたけど「新宿レコード」(※46)とか、「ディスクランド」(※47)とか、あと「エジソン」(※48)ですよね。

P:ああー。

中:「エジソン」は1階はメタルとか、のちにビジュアル系になっちゃいましたけどインディで、2階がユーロ、プログレだったんですよ、80年代末期は。そこに行っちゃあ「あ、なんかヴィエナ(※49)ってのがデビューするらしい」とか。「テルズ・シンフォニア(※50)アストゥーリアスのアナログ盤も買おうか」とか。

僕、アナログ盤で最後まで粘ってたんですよ。当時CDってのが出てきて、1987~1988年から広まり始めて、その頃から聴き始めた人はCDしか持ってないとか、レコードはもう聴かないとかいう人が結構いたんですけど、僕はどっちかというとアナログ派で、CD出ててもあえてアナログのほうを買う。例えば「エジソン」のみでキング・レコードから出たCD再発のアナログ盤を限定で出たのを買ったりとか。それより前ですけど(サイズが)小さかった頃の雑誌「フールズ・メイト」(※51)の裏表紙の広告とか。

P:ああ、見た気がする!

中:ユーロ・ロックの再発を「エジソン」がやった時に全面広告打ってましたよ。「プログレ・ファン全員に告ぐ」とかって(笑)。僕は世代的にはCD再発ブーム世代なんですけど、最後まで粘ってアナログで聴くという、プログレ・ファンにありがちな(笑)。それこそ配信全盛になっても最後まで粘ってCDで聴くのがプログレ・ファンなんじゃないかと思ってますけど(笑)。

大学4年生になった頃に、就活を始めてはみたものの(笑)唯一、役員面接までいったところがキング・レコードで(笑)。落ちたんですけど、最後の面接の中に新井(健司)さんっていう有名なキングのディレクターがいて、「あ、前高の出身なの?」って。同じ高校だったんですよ。前橋高校、まえたか(笑)。

P:えーっ。

雑誌「マーキー」の通販リストを見てたら、アルバイト募集が載ってて、最初はアルバイトで入ったんですよ。店員からはじめて、「マーキー」の原稿書かせていただくようにもなり、大学4年の最後ぐらいから現在まで25年以上。

中:で、「プログレ好きなんだ」って。あ、これイケんのかなって思ったら落とされたっていう(笑)。でも、そこまでいけたのは(プログレで有名な)キング・レコードだけだったという。キングさんはいまだにプログレ一生懸命出してくれてたり、すごくありがたいんで、そのキングさんと一緒にお仕事するようになるとは不思議な縁というか。

P:ほんとですよね。

中:新井さんは高校の先輩だったり。新井さんはイタリアの歌物がお好きで、キングのユーロ・ロック・コレクションの歌物編とか出されてた方なんですよ。

・・・で、就職もままならない、どうしようかなってなってた時に、たまたま「マーキー」の通販リストを見てたら、アルバイト募集って載ってて、応募してみたら採っていただいて。

P:ああ、じゃあアルバイトからですか。

中:そう、アルバイトで入ったんですよ。基本的には雑用及び店に立つということで。徐々に雑誌「マーキー」の原稿書かせていただくようにもなりましたけど。よく採っていただいたというか、ありがたいことなんですけどね。1993年末、大学4年の最後ぐらいから入って現在まで25年以上。

今は実質、雇われ店長で、会社としてのオーナーは山崎、賀川なんですけど、ショップに関しては任せてもらってるっていうか。海外の仕入れに関しては別の担当の者がいるんですけど、日本物に関しては私に任されています。

P:「WORLD DISQUE」ってGoogleで検索すると、中島ってサジェスチョンで出てきましたからね。

中:ありがとうございます。で、日本のバンドに関してはなるべく自主盤でもいいバンドは積極的に扱う、例えば「バスクのスポーツ」(※52)とか(店頭にディスプレイされているCDを見せつつ)、新しいバンドでまだプログレ・ファンには知られていないんだけど、プログレ・ファン向きのいいバンドがいるんですよってCDを扱い始めるという。

ライヴ・シーンで、シルバー・エレファント(※53)さんとか僕もよく行かせていただくんですけど、シルエレさんに出ていないようなバンドでも結構いいバンドが多くて。なるべく情報を得て、積極的に仕入れている感じですかね。

売る側にまわってみて、ウチのお店、基本的にマニア相手のお店なんです。僕が入った頃はお客さんの方が全然詳しいし、新譜はいいんですけど廃盤のものがわかんなくて。松本さんから仕込んでもらって、虎の巻っていうかノートがあって、レーベルの見分け方とか。

P:すごい!頭にいっぱい知識の詰まったお客さんが。

中:インターネットもまだなかったし。情報がほんとないわけですよ。現場でやってた人の経験とか知識っていうのはすごい重要で、店員としてのイロハはもちろんですけど、商品知識とかレーベルのこととかは松本さんに仕込んでもらったので、ほんと感謝してますね。


(インタビュー日時:2020年2月29日 東京・目白「WORLD DISQUE」にて)

WORLD DISQUE(ワールド・ディスク)

東京都新宿区下落合3-1-17メゾン目白102

03-3954-5348

http://www.marquee.co.jp/world_disque/d.w.frameset.html

営業日:月・金・土・日+祝日

(定休日は、祝日を除く毎週火・水・木曜日です。)

月・金・土曜→ 13:00~20:00

日曜・祝日→ 13:00~19:00

<第6回:WORLD DISQUE店長・中島 俊也さん>

※38 メタリカ

アメリカ合衆国出身のヘヴィ・メタル・バンド。 1981年結成。世界的に最も成功を収めたメタル・バンドとして知られる。

※39 ピーガブ・コスプレ

ピーター・ガブリエルがジェネシス時代に見せたステージでの曲毎に変わるメイクやコスチューム。コウモリ姿、オールド・マン、フラワー・マスク、ブリタニアなど様々な衣装があるが、具体的にどんな姿かはネット検索にて。

※40 オルタナ

オルタナティヴ・ロック。大手レコード会社主導の商業主義的な産業ロックやポピュラー音楽とは一線を画し、時代の流れに捕われない普遍的な価値を求める精神や、アンダーグラウンドの精神を持つ音楽シーンのこと。代表的なバンドとして、ソニックユース、ダイナソーJr.、グリーン・デイなど。

※41 グランジ ロ

ック音楽のジャンルのひとつ。汚れた、薄汚いという意味の形容詞 "grungy" が名詞化した "grunge" が語源。1989年頃からアメリカ・シアトルを中心に興った潮流であり、オルタナティヴ・ロックの一つである。ニルヴァーナやパール・ジャム、サウンドガーデン、といったバンドがアルバム・チャートで成功を収めた。

※42 カンタベリー系

カンタベリー・ロック。イギリスのカンタベリー出身者を中心とするプログレッシヴ・ロック系のバンド、ミュージシャンの一群による音楽を指す用語。

※43 ヘンリー・カウ

1968年にケンブリッジ大学でマルチ奏者のフレッド・フリスとティム・ホジキンソンによって結成された英国の前衛的なグループ。

※44 ハットフィールド

ハットフィールド・アンド・ザ・ノース。イギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド。カンタベリー系と呼ばれるバンドの一つである。

※45 マグマ

フランス出身のプログレッシヴ・ロック・バンド。コバイア語という架空言語を駆使して、スペース・オペラ的な長編物語を構築。

※46 新宿レコード

1970年2月から西新宿で営んでいた老舗ROCK専門店。2017年新店長で下北沢に移転。

※47 ディスクランド

西新宿に存在した日本初の海賊盤専門店Kinnie(キニー)が改名。1993年(頃?)に閉店。

※48 エジソン

西新宿にあったレコード店UK EDISON。インディーズ系の音楽(特にメタル、パンク系)に強かった。

※49 ヴィエナ

日本のプログレッシヴ・ロック・バンド。1988年から1989年にかけて、キングレコードの社内レーベル「クライム」からスタジオ・アルバム2作とライブ・アルバム1作を発表。既にキャリアのあるメンバーが集まって結成されたことから「プログレ・スーパー・グループ」と呼ばれた

※50 テルズ・シンフォニア

日本のプログレッシヴ・ロック・バンド。人気プログレ・バンド、ノヴェラの平山照継によって結成された。

※51 フールズ・メイト

1977年に創刊された日本の音楽雑誌。2012年12月停止。ピーター・ハミルのファースト・ソロ・アルバムのタイトルから採られていることからもわかるように、当初はユーロ・プログレッシヴ・ロックの専門誌だった。

※52 バスクのスポーツ

2012年に武蔵野美術大学にて結成された4人組インストゥルメンタル・ロック・バンド。プログレッシヴ・ロックと現代ポップスを融合させたサウンドと表現される。http://vsq-sports.com

※53 シルバー・エレファント

1978年創業、東京・吉祥寺のライヴハウス。プログレの聖地とも呼ばれる。