プログレに興味のある若い人も、すでにプログレにどっぷり浸かって何十年の人もぜひ読んで、知っていただきたい!田園企画の連載。
田園のボーカルPippiが毎回「プログレ賢人」たちの元を訪れ、それぞれのお人柄やプログレ愛についてインタビューする、裏・プログレ・ガイド。これを読んで関心を持ったら、ぜひ賢人たちの元に足を運んでいただきたい!その第2弾は東京・目白の創業30年を越える、プログレッシヴ・ロック、ユーロ・ロックの老舗専門店「WORLD DISQUE」の店長、中島 俊也さんにご登場いただきます。
中島:いろんな国のプログレッシヴ・ロックってのがあって、店で扱っててお客さんから一番好きなのは何ですかって、たまに訊かれるんですけど、難しいんですけどもバンドでいうとジェネシス(※1)が一番好きだったりするんです。
国別で聴く人っているじゃないですか、イタリアが好きとか、ブリティッシュが好きとか、ジャーマンが好きとか国別に聴く人っているんですけど、僕は実は日本のアーティストが一番好きなんですよ。個人的な思い入れも含めてプログレ原初経験と深く関わってまして。
僕がプログレを知ったきっかけっていうのは、80年代中盤、今49才、1971年生まれなんですけど、1984年から86年、中学生で洋楽に入って、ヘヴィ・メタル、ハード・ロック、アイアン・メイデン(※2)にまず入ったんですよ。
そこのスティーヴ・ハリス(※3)っていうベーシストが、プログレッシヴ・ロックっていうのに影響を受けているらしいと、そういう話を聞いてですね、物の本、例えば渋谷陽一(※4)さんが出してた「ロック100選」(新潮文庫)に出ているカタログを見ていると、どうやらプログレッシヴ・ロックっていうジャンルがあるらしいと。
スティーヴ・ハリスはジェネシスに影響を受けているらしいと。ジェネシスって、あのジェネシス?80年代当時(ヒットしていたポップ・アルバム)「インヴィジブル・タッチ」の頃なんで、これがプログレなの?みたいな。
全然知らなかったんですけど、実は70年代初期のジェネシスにスティーヴ・ハリスが影響を受けてて、アイアン・メイデンのルーツの一つとして、プログレッシヴ・ロックっていうのがあるらしいと。
で、プログレっていうのは何なんだ?っていうので、「BURRN!」とかヘヴィ・メタルの雑誌を読んでても、たまに載ってるわけですよ、
お客さんからたまに「一番好きなのは何ですか」って訊かれるんですが、バンドでいうとジェネシスが一番好きだったりするんです。
Pippi:あっ文字情報として。
中:キングレコードのユーロ・ロック(※5)コレクションのCDが再発されました、とかを見ても、なにこれ?、って全然わかんないわけですよ(笑)。渋谷さんの本のカタログでピンク・フロイド(※6)とかキング・クリムゾン(※7)とか割と有名どころは載ってるんですね。それを(ジェネシスをはじめ)まず聴いてみたいなと思って。
群馬の前橋市の出身なんですけど、前橋市立図書館でレコードを無料で貸し出していたわけですよ。図書館って結構穴場で、当時。
P:意外とね、マニアックなのがね。
中:アナログ・レコードの時代で、CDも置いてたんですけど、結構マニアックなものが無料で借りられるんで。ピンク・フロイドの「狂気」(※8)とか。いろいろ借りましたよ。タンジェリン・ドリーム(※)9とか。で、間違ってクラスター(※10)っていうの借りたんですけど、まったくわかりませんでした(笑)。「クラスターII」(※11)ってのを聴いてしまったんですけど、電子音がビヨビヨ鳴ってるだけで、なんだこれがプログレなのかと(笑)。わからない、みたいな。
P:図書館にそういうものがあるなんて。
中:基本的には、いわゆる5大バンドですよね{キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、イエス(※12)、EL&P(※13)、ジェネシス}。そのへんの有名どころを聴くようになったんですね。高校1年の時点で結構ハマってて、プログレとメタルを並行して、スラッシュ・メタル(※14)全盛の時代だったんですけど、聴くようになってて。情報源として大事だったのが「マーキー」という雑誌があって。(当時の雑誌を手に取りながら)これが「マーキー1981~90」っていう、総集編。すごく初期の「マーキー・ムーン」のレビューとか記事が載ってますけど。
P:すごい。
中:「マーキー」っていう雑誌は「WORLD DISQUE」を語る上で、抜きでは語れない、要するに「マーキー」っていう会社のショップ部門なんですよ。「マーキー」っていう会社は山崎尚洋と賀川雅彦っていう代表が2人いるんですけれど、山崎が立教大学時代に始めた「マーキー・ムーン」っていうサークルなんです。
P:そうなんだ!
これが「マーキー1981~90」っていう、総集編。すごく初期の「マーキー・ムーン」のレビューとか記事が載ってます。
中:ユーロ・ロック研みたいな、いわゆるリスニングの方のサークルだと思うんですけど、そこから始まって、最初は同人誌みたいな感じで出していたんだけれども、出版物として流通に乗るようになって。
1986~87年ですかね、僕の地元の、今は無くなっちゃった前橋の西武デパートのリブロポートっていう本屋さんで「マーキー」を見つけて、なんだこれって見てみたらプログレの雑誌らしいと。「BURRN!」みたいな感じでプログレと言えば「マーキー」っていう雑誌があるんだ!みたいな。それで買うようになったんです。
載ってる内容は全然わかんないんだけど、読んでたんです。でも、美狂乱(※15)っていうバンドの未発表ライブを「マーキー」がレコードとして出しますよと(いうのを見て興味を持って)。「マーキー」は雑誌の「マーキー・ムーン」から名前を変えて活動してたんですけど、「ベル・アンティーク」っていうレコード・レーベルも始めるようになって、初期はフロマージュ(※16)とかマジカル・パワー・マコ(※17)とか日本のアーティストを出していて、その流れで出た美狂乱の未発表ライブをリアルタイムで買いました。1987年頃アナログ・レコードを買いましたね。
で、その頃から日本のプログレっていうのが好きになって、KENSO(※18)とか。友だちに聴かせたくなるんですよね。僕よりも詳しい友だちが同じ学校にいたんです。
P:それはいい環境ですね。
中:でも実はそんなに仲良くなくて(笑)お互いライバルじゃないですけど、あいつから習うのはちょっと、という(笑)
P:わかります(笑)
マーキー「ユーロ・ロック集成」
「イタリア、フランスのプログレのカタログとして、割と基本的な名盤をセレクトしてあるので、これはすごく入門には役に立ちました」
中:そいつの家に行って、いろいろ聴かせてもらってたりはしたんです。でもどっちかっていうと自分で発掘する方が楽しくて。カタログ本、「マーキー」の「ユーロ・ロック集成」っていうのが出てたんですけど(本を見せてもらう)、イタリアとかフランスとか、プログレのカタログとしてはかなり良くて。割と基本的なアイテムっていうか名盤をセレクトしてあるので、これはすごく入門には役に立ちましたね。高校生なのでお小遣いもないのでレコードはそんなにたくさんは買えないんですけど。
P:お小遣い、限られてるし。
中:あと、初心者時代に役に立ったのが、地元の「新星堂前橋店」(レコード・ショップ)に店員さんがいて某Sさんという(笑)鈴木さんという方がいらっしゃいまして、プログレ・ファンで。その店員さんと仲良くなって。当時高校生だけど、頑張ってアイアン・メイデンとか予約して買ってたんですけど、たまにユーロ・ロックとかも買うようになってたんですよ。
「新星堂」のエヴァ―・グリーン・レコードって緑色のラインの袋の名盤の中にユーロ・ロックのコーナーがあって。たぶんその店員さんの趣味で作ったんじゃないかなと思うんですけど。当時キング・レコードのユーロ・ロック・コレクションとか再発されてて、オザンナ(※19)とかニュー・トロルス(※20)とかイタリアン・ロックの有名どころが新品で残っていた。
80年代後半、廃盤になってたのも多かったんですけどギリギリ残ってた新品を取り寄せたりして。ある日、鈴木さんが「こっそりプログレ名曲お好みテープ作ってあげるから、聴いてみて」って。当時中古盤を買うっていう発想がまだなくて、新品で売ってるもんじゃないと買わないっていう。中古盤屋が近くになかったこともあるんですけど。鈴木さんからもらったカセットテープはいまだによく覚えてますよ。けっこうありがたかったですね。
内容は基本的なところも多かったんですけど、UKとか、キャラヴァン(※21)の「狩りへ行こう」(※22)とか。エクセプション(※23)とか、メインホース(※24)とか今考えるとけっこう渋いのも入ってたりして(笑)。
店内は手書きのPOPでいっぱい。常連さんが「中島フォント」と呼ぶPOPを読んでいるだけでも楽しい時間を過ごせる。
まずイギリス5大バンドから入って、次にその周辺のルネッサンス(※25)とかジェントル・ジャイアント(※26)とかヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター(※27)とかの名盤を聴いてみるわけじゃないですか、その後、ブリティッシュから入って、ユーロ・ロックの名盤に進んで、そこから先どうするかっていうのが分かれ目、っていう気がするんですよね。
高校時代にプログレにハマってから、以前バンド・メンバーの方にもお話したことあるんですけど、ある日、全然プログレとか知らない友だちが「昨日FM群馬で新●月/しんげつ(※28)っていうのがかかったんだけど、エア・チェックしたんだけど聴く?」「えっ新●月?!」って。当時、新月って名前は知っててすごく聴きたかったんだけど廃盤で、まだ再発されてなくて。初めて聴いたんです。
P:天からの啓示みたいな感じ。
中:そうなんですよ、群馬の片隅で。その番組のDJの人も新月がラジオでかかるのは何年ぶりなんでしょうねって話してて。「科学の夜」※29って曲をエアチェックしたテープで聴いて、これがすごい良くて。新月大好きになっちゃって、美狂乱、新●月は高校時代ほんとによく聴いてましたね。部活や生徒会関係とかの合宿で寝しなにプログレを延々かけながら(笑)寝れねーぞ、みたいな(笑)。
P:まわりに学友もいるところで(笑)
中:そうそう(笑)。アストゥーリアス(※30)ってバンドのファーストアルバムのB面の組曲(※31)をかけたら、全然関係ない人が「これ、森の中歩いてるみたいな感じの曲だね」って。なんでわかるの、みたいな(笑)。
P:まわりにも波及していくような感じで。
中:その頃にジャップス・プログレ(日本のプログレ)を布教してハマってくれた友だちがいて、漫画研究会の子だったんですけど、オタク属性のある人はわりとプログレにハマりやすいっていうかね、やっぱり近いものがあるんですね。
P:そうですね。漫画家さんもそういうお話の中で。私もまさにそういう感じだったんで。
中:萩尾望都さん(の作品)とかテーマにしてるフロマージュの「トーマの心臓」(※32)とかね。ページェント(※33)の「ベクサシオン」(※34)とか。
P:お互いに影響を与え合ってたって感じかな。
中:少女漫画の影響もあるし、アニメとかとのシンクロも当時からありましたしね。難波弘之(※35)さんがサントラやってたりとか。「機動戦士Ζガンダム」(※36)の音楽(三枝成章 ※37)とか。
(インタビュー日時:2020年2月29日 東京・目白「WORLD DISQUE」にて)
WORLD DISQUE(ワールド・ディスク)
東京都新宿区下落合3-1-17メゾン目白102
03-3954-5348
http://www.marquee.co.jp/world_disque/d.w.frameset.html
営業日:月・金・土・日+祝日
(定休日は、祝日を除く毎週火・水・木曜日です。)
月・金・土曜→ 13:00~20:00
日曜・祝日→ 13:00~19:00
※1 ジェネシス
イングランド出身のプログレッシヴ・ロック・バンド。1970年代のプログレッシヴ・ロック全盛時代、シアトリカルなスタイルで地位を確立。フィル・コリンズらを中心とした1980年代にはスタジアム・ロックを展開し世界的な成功を収めた。
※2 アイアン・メイデン
イングランド出身のヘヴィ・メタル・バンド。
※3 スティーヴ・ハリス
ヘヴィ・メタル・バンド、アイアン・メイデンのベーシストかつリーダー。
※4 渋谷陽一
日本の音楽評論家、編集者。株式会社ロッキング・オンの代表取締役社長。
※5 ユーロ・ロック
主に1970年代にイギリス以外のヨーロッパで活動したロック・バンド及びその作品に対する呼称。
※6 ピンク・フロイド
イングランド出身のロック・バンド。プログレッシヴ・ロックの先駆者としても知られる。
※7 キング・クリムゾン
イングランド出身のプログレッシヴ・ロックバンド。同分野で重要な位置に格付けられているグループの一つ。
※8 ピンク・フロイドの「狂気」
1973年に発表されたピンク・フロイドの8作目のスタジオ・アルバム。このアルバムは売り上げ5.000万枚以上を記録し、世界で最も売れたアルバムの一つとなった。
※9 タンジェリン・ドリーム
ドイツ出身の電子音楽グループ。
※10 クラスター
ドイツで1971年に結成された、2名からなるプログレッシヴ・ロック・バンド。
※11「クラスターII」
1972年に発表されたクラスターの2作目のアルバム。https://youtu.be/pbTIxXLIj0Q
※12 イエス
イギリスのプログレッシヴ・ロックバンド。1969年にデビュー。代表作にアルバム「こわれもの」(1971年)、「危機」(1972年)、「ロンリー・ハート」(1983年)などがある。
※13 EL&P エマーソン、レイク&パーマー
キース・エマーソン、グレッグ・レイク、カール・パーマーの3人により、1970年に結成されたイギリスのプログレッシヴ・ロックバンド。
※14 スラッシュ・メタル
音楽のジャンルの一つ。従来のヘヴィメタルにハードコアの過激さを加えた音楽形態を指す。Thrash とは「鞭打つ」という意味である。
※15 美狂乱
1974年に結成された日本のプログレッシヴ・ロック・バンド。ヘヴィネスとリリシズムの共存するサウンドと東洋的なミステリアスさを持った楽曲で、「和製キング・クリムゾン」と呼ばれた。
※16 フロマージュ
'77年結成、元ページェントの中島一晃、元ノヴェラの永川敏郎等も在籍した日本のプログレッシヴ・ロック・バンド。
※17 マジカル・パワー・マコ
(本名:栗田 誠)は、静岡県田方郡修善寺町(現・伊豆市)生まれの音楽家。通称、マコ。中学生時代から曲を作り始め、14歳ですでにオープンリール・テープレコーダーを使って自作曲の録音を始める。1974年、ポリドールより、デビューアルバム「マジカル・パワー」を発売。奇想天外で実験的な音楽性が一部で絶賛される。
※18
KENSO 日本のプログレッシヴ・ロック・バンド。1974年、バンドのギタリスト兼リーダーとなる清水義央を中心にバンド「県相(けんそう)」が結成される。当時清水は神奈川県立相模原高等学校の2年生で、バンド名は学校の通称から取った。
※19
オザンナ 1971年にイタリアのナポリで結成されたプログレッシヴ・ロック・バンド。
※20 ニュー・トロルス
イタリアのプログレッシヴ・ロック・バンド。1966年結成で、もともとはビート・ポップス・バンドだったが、新しい音楽性を追求していく内にプログレ・バンドへと成長していった。
※21 キャラヴァン
イングランド出身のプログレッシヴ・ロック・バンド。カンタベリー・ミュージックの礎を築いたグループとして知られる。
※22 狩りへ行こう
キャラヴァンが1973年に発表したアルバム「夜ごと太る女たちのために」収録曲。
※23 エクセプション
オランダのプログレッシヴ・ロック・バンド。
※24 メインホース
イエスのアルバム「リレイヤー」で活躍したキーボーディスト、パトリック・モラーツが在籍したプログレッシヴ・ロック・バンド。
※25 ルネッサンス
イングランド出身のプログレッシヴ・ロックバンド。シンフォニックな叙情派で知られる。
※26 ジェントル・ジャイアント
イングランド出身の1970年代に活動したプログレッシヴ・ロック・バンド。
※27 ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター
イギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド。VDGGと略して呼ばれることも多い。
※28 新●月
1976年に結成された日本のプログレッシヴ・ロック・バンド。ピーター・ガブリエルの影響を強く受けたシアトリカルなライブパフォーマンスから「和製ジェネシス」と呼ばれた。
※29 科学の夜
新●月オリジナルアルバム「新●月」収録曲。https://youtu.be/7CmWsz945IU
※30 アストゥーリアス
1988年キングレコードからデビューしたプログレッシヴ・ロック・ユニット。
※31 ファーストアルバムのB面の組曲Circle In The Forest https://www.youtube.com/watch?v=auwRE5Y1d_I
※32 トーマの心臓
フロマージュが1988年にリリースしたアルバム「OPHELIA」収録曲「トーマ」。
※33 ページェント
関西のプログレッシヴ・ロック・バンド。80年代の日本のプログレッシヴ・ロックを牽引したバンドの一つ。
※34 ヴェクサシオン
ページェントが1989年にリリースしたアルバム「螺釦幻想」収録曲。https://youtu.be/2zA8qz238c0
※35 難波弘之
日本の作曲家・編曲家、SF作家。山下達郎バンドのキーボーディスト、自己のプログレッシヴ・ロック・バンド「センス・オブ・ワンダー」などで活躍。
※36 機動戦士Ζガンダム
「ガンダムシリーズ」のテレビアニメ。1985年(昭和60年)から1986年(昭和61年)まで全50話が放送された。
※37三枝成章
日本の作曲家、編曲家。