Pippiの「教えて!プログレ先生」

第3回:カフェ・フライングティーポット店主・目黒 子さん

プログレに興味のある若い人も、すでにプログレにどっぷり浸かって何十年の人もぜひ読んで、知っていただきたい!田園企画の新連載。

田園のボーカルPippiが毎回「プログレ賢人」たちの元を訪れ、それぞれのお人柄やプログレ愛についてインタビューする、裏・プログレ・ガイド。

これを読んで関心を持ったら、ぜひ賢人たちの元に足を運んでいただきたい!そんな思いで始める、江古田の「カフェ・フライング・ティーポット」のマスター、目黒 子(めぐろ しげる)さんへのインタビューの第3回です。

●おすすめのプログレッシブ・ロック・アルバム

P:目黒さんおすすめのプログレ・アルバムを教えてほしいのですが。

:それを訊かれるのが一番困るっていうか、無いんですよ(笑)。よく訊かれるんですけど。ゴングのフライングティーポットとも言いたいんですけど。どうせっだったらいろんなの聴いた方がいいよ。

デヴィッド・アレンっていうのはビートニクス(※26)なんですよね。元々オーストラリア出身で若い時は本屋さんで働いてたんです。ウイリアム・バロウズ(※27)とかジャック・ケルアック(※28)とかの本を読んで触発されて、どうやらフランスにバロウズはいるらしい、ちょっと行って会わなきゃって60年代にフランスに行って交流を持ったらしいです。

で、その頃フランスで学生運動がすごく盛んで鎮圧のために来てた警官隊にテディベアを配って歩いたっていう。

おすすめのプログレ・アルバムを教えてほしいのですが。

「それを訊かれるのが一番困るっていうか、無いんですよ(笑)」

P:(笑)非暴力のパフォーマンス。可愛らしい抵抗ですね。

:その後イギリスのカンタベリー(※29)に移動して、その時に下宿したのがロバート・ワイアット(※30)の両親がやってたゲストハウスなんです。

・・・(この話の流れで)なんでデヴィッド・アレンかっていうと、何でもやるんですよ。ジャズもやれば。紆余曲折あってソフト・マシーン(※31)を作るわけですよ。デヴィッド・アレン、イギリス人じゃなくてヒッピーだったから、素行がよくわからない。ソフトマシーンでツアーに行った時に入国できなくなっちゃうんです。

で、フランスにとどまってそこでゴングを結成するわけなんです。また全然違うバンドで。「エンジェルズ・エッグ」(※32)っていうアルバム出した後ゴングも子育てするんだって抜けちゃうんですよ。

その頃のメンバーはアレンの言い分によるとウェザー・リポート(※33)みたいな音楽をやりたがってて、でも自分はそういう音楽には興味がなくて、もっとアコースティックでフォーキーな音楽をやりたかったから離れたんだって言ってましたね。

・・・この人が面白いのは、普通だったらじゃバンド解散だってなるじゃないですか、でもこの人は、あとに残ったメンバーでやればいいじゃない、好きなことやればいいじゃないって。船の船長さんみたいな感じで俺は降りるから、あとは誰か船長さんやればいいじゃないみたいな。

・・・その後ドラマーのピエール・ムーラン(※34)が中心になって、まったく違うフュージョンのバンドになっていくんです。なんかのインタビューで、あれはゴングじゃないんじゃないかってアレンにインタビューしてて、彼は、あれもゴングだよって(笑)。懐広い(笑)。晩年までポスト・ロック(※35)みたいなことやってたりとか、トランス・ミュージック(※36)みたいのやったりとか、なんでもやる人なんです。

評論家のレビュー見るとデヴィッド・アレンは何をやりたいのかわからないってネガティブな感じで書かれてて、でも聴いてるほうとしてはそうでもないんじゃないかって。この人はこの人のやりたいことをやってくんだなって。

P:(アルバム「フライングティーポット」は)長い活動の中のある時期を切り取ったものがこれに過ぎなくて、いろいろやる人だと。

:日本にもしょっちゅう来てたんですけど、今年は何をやるのかなって楽しみにしてました。


カウンターの奥にあるCDの棚、JBLスピーカーとマッキントッシュのアンプの隙間を埋め尽くす膨大な資料

●プログレって?

P:ものすごく雑に言うとプログレってなんでもありな・・・

:試みのある音楽。

P:実験的な、ありきたりじゃないものを取り入れる、みたいなのがプログレッシブ。

:真髄。70年代のものが終息してったらニューウェーブ、あれも一種のプログレッシブですよね。その当時の最先端。その後下火になってったらオルタナティブ、ポストロックとか、みんな同じ意味じゃないですか。言葉は変わりますけれども中は考え方も含めプログレッシブ。

目黒さんが選ぶプログレ・アルバム10選

『フライング・ティーポット』- Flying Teapot (1973年)

ゴング GONG

このアルバムを紹介しないわけにはまいりません。

デヴィッド・アレンの様々なモノが詰まったアルバムです。

彼は生涯を通してこの時期の曲を演奏し続けていました。

『ウマグマ』(Ummagumma)(1969年)

ピンクフロイド Pink Floyd

ピンクフロイドはこの時期、「The Man and The Journey」という2枚組のアルバムを企画していたのですが、

諸般の事情により頓挫してしまいました。

曲は『モア』『ウマグマ』『原子心母』に振り分けられます。

「The Man and The Journey」は人の一生をテーマとした作品で、その後のピンクフロイドの柱と成るコンセプトだと言えるでしょう。

『ウマグマ』そんな時期のライブと各々のソロ作品を収録した最も実験的なアルバムです

「Careful With That Axe, Eugene」

ロジャー・ウォータースの叫びは、彼の寿命が縮んで居るじゃ無いかと思うほど凄まじいです。

『ゴッドブラフ』 - Godbluff (1975年)

ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター Van Der Graaf Generator

重厚なサウンド、バンドのテンションの高さ、ピーター・ハミルの凄みのあるボーカル。

いやぁ、凄いですよ、ホント。

Van Der Graaf Generator - Godbluff Live 1975 DVD

『タイムウィンド』 - Timewind (1975年)

Klaus Schulze

シンセ!シンセ!シンセ!の嵐!

クラウス・シュルツェはシンセサイザーミュージックのオリジネーターですね。

今では、すっかりお馴染みに成ったシンセサウンドですが、当時は類を見ないサウンドでした。

ヘッドホンで聴くと、何処かへ連れ去られてしまうのでは?と思えるほど衝撃的でした。

ハットフィールド・アンド・ザ・ノース(Hatfield And The North)

卓越した演奏と、複雑な構成。

そこはかとないユーモアと、のびやかなサウンド。

カンタベリー系ジャズロックの名作ですよ。

ベース&ボーカルのリチャード・シンクレア (Richard Sinclair) がフライングティーポットに遊びに来てくれてセッションが行われました。

あの声、あのベースを間近にして、もう涙ものでしたよ。

『アナザー・グリーン・ワールド』-Another Green World(1975年)

ブライアン・イーノ Brian Eno

アンビエントというサウンドコンセプトを提唱する前のイーノのアルバム。

何とも言えない心の奥をザワ付かせるような曲の数々。

実に奇妙で素晴らしいアルバムです。

『フューチャー・デイズ』 - Future Days (1973年)

カン CAN

これぞ、ジャーマンロックの名作です。

ぜひ御一聴を!と言いたいアルバムです。

『ハージェスト・リッジ』 - Hergest Ridge (1974年)

マイク・オールドフィールド Mike Oldfield

有名なホラー映画のテーマ曲に使われた1作目、名盤と名高い3作目に挟まれ少々地味な印象とされる2作目ですが、この作品も名作です。

曲はシンプルでナイーブな導入から、何処か滾るものを押さえながらドラマチックに展開して行きますね。

コーラス、メロディは1作目よりも英国のルーツを強く感じさせる作品です。

『RPWL plays Pink Floyd - The Man and The Journey』(2016)

RPWL

RPWLはドイツのバンドでピンクフロイドのカバーも多く手がけています。

このアルバムは、前述したピンクフロイドの幻のアルバムを『The Man and The Journey』を再現したアルバムです。

オリジナルの楽曲でもピンクフロイドサウンドを自家薬籠中のモノとしています。

『Blackfield Ⅳ』(2013年)

ブラックフィールド Blackfield

ブラックフィールドはポーキュパイン・トゥリーのスティーヴン・ウィルソンと、イスラエルのミュージシャン、アヴィヴ・ゲフィンとのバンドです。

中東の紛争地域イスラエルに於いて反戦・平和をテーマにしたアルバムをリリースしています。

スティーヴン・ウィルソンは多くのバンドやソロで活躍するミュージシャンですが、

キング・クリムゾン、キャラヴァン、ジェスロ・タル、ELP、イエス、ジェントル・ジャイアントなどのリマスターも手がけていて現在のProg.Rockを支えるミュージシャンの一人です。

Blackfield - Jupiter (from IV)

(インタビュー日時:2019年10月5日、場所:東京都練馬区江古田 カフェ・フライング・ティーポット)

カフェ・フライングティーポット

東京都練馬区栄町27-7榎本ビルB1

03-5999-7971

11:00-22:00 火曜日定休

https://flyingteapot1997.wixsite.com/ekoda-flying-teapot

<おわり>


<第4回:WORLD DISQUE店長・中島 俊也さん>

※26ビートニクス

1955年から1964年頃にかけて、アメリカ合衆国の文学界で異彩を放ったグループ、あるいはその活動の総称。

※27ウイリアム・バロウズ

アメリカ合衆国の小説家。1950年代のビート・ジェネレーションを代表する作家の一人。

※28ジャック・ケルアック

アメリカの小説家・詩人で、ビートニク(ビート・ジェネレーション)を代表する作家の一人。『路上』、『孤独な旅人』などの著作で知られる。

※29カンタベリー

イギリス・イングランド南東部ケント州東部に位置するシティ・オブ・カンタベリーの中心エリア。

※30ロバート・ワイアット

イングランド出身のロック・ミュージシャン、シンガーソングライター、元ドラマー。若き日は、カンタベリー・ロックバンドの「ソフト・マシーン」や「マッチング・モウル」に在籍。事故でドラマーの道を絶たれてからは、ソロ・シンガーとして活動した。

※31ソフト・マシーン

イングランド出身のプログレッシブ・ロックバンド。「キャラヴァン」と共にカンタベリー・ミュージックの礎を築いたグループとして知られる。

※32『エンジェルズ・エッグ』

ゴングが1973年にリリースした4枚目のアルバム。

※33ウェザー・リポート

1970年に結成されたアメリカのジャズ・フュージョン・グループ。

※34ピエール・ムーラン

ゴングのドラマー。デヴィッド・アレン脱退後、「ピエール・ムーランズ・ゴング」と改名して1988年まで活動した。

※35ポスト・ロック

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF

※36トランス・ミュージック

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9_(%E9%9F%B3%E6%A5%BD)