Pippiの「教えて!プログレ先生」

第6回:WORLD DISQUE店長・中島 俊也さん

プログレに興味のある若い人も、すでにプログレにどっぷり浸かって何十年の人もぜひ読んで、知っていただきたい!田園企画の連載。

田園のヴォーカルPippiが毎回「プログレ賢人」たちの元を訪れ、それぞれのお人柄やプログレ愛についてインタビューする、裏・プログレ・ガイド。これを読んで関心を持ったら、ぜひ賢人たちの元に足を運んでいただきたい!その第2弾は東京・目白の創業30年を越える、プログレッシヴ・ロック、ユーロ・ロックの老舗専門店「WORLD DISQUE」の店長、中島 俊也さんにご登場いただきます。

●90年代以降のプログレ・シーン

中島:現在の店舗に引っ越したのは1995年かな。(雑誌の裏表紙を見せてもらいながら)、「目白系総本山」(笑)「渋谷系」に引っ掛けてるわけなんですけど、当時らしい(笑)。この頃には僕がメインで店に立つようになってて、松本さんは雑誌のほうにってことで。日本のライブ・シーンもすごい充実してて、ボンデージ・フルーツ(※54)とか高円寺百景(※55)とか。

Pippi:吉田達也(※56)さん。

中:そうそう、吉田達也さん、鬼怒無月(※57)さんとか。P.O.N.(※58)とか大友良英(※59)さんのグラウンド・ゼロ(※60)とか。

P:まさかNHKの朝ドラ(※61)に、と思いましたけどね。

中:(笑)やっぱり90年代中盤、インターネット時代の到来っていうのがすごい大きくて、インターネットの普及とともにフェスティバルってのがブームになってきたんですよ。1994年、アメリカでの「PROG FEST」(※62)ってのが最初だと思うんですよ。で、各国に飛び火してプログレ・フェスが開催されるようになったんですね。

なんでかっていうと、インターネットでバンドと直で繋がれるようになって、バンドが復活を始めるんですね。復活ブームとリンクしてて、「PROG FEST」だったらオーストラリアの伝説の、あのセバスチャン・ハーディ(※63)が復活ということでトリを取ったりとか。

その一方で、90年代になってアングラガルド(※64)とかアネクドテン(※65)とか北欧系が多かったですけど、新人でいいバンドが出てきて、80年代にはアンダーグラウンドに潜りすぎてたっていうか、元気がなかったプログレ低迷期を吹っ切るようないいバンドが出てきたんですね。CDもそういった新譜と、あと再発ブームが続いてたんで90年代末期にはマグマとかカンタベリー系もプログレの範疇で売れるようになって、店でも売れるようになって、いい広がりが出来てきたかなって思います。

「現在の店舗は1995年から「目白系総本山」は「渋谷系」に引っ掛けてるわけなんです」

(写真は当時の雑誌)

●中島さんにとってのプログレとは?

プログレとは?論ってすごくあって、僕も答えるのが難しいというか、それこそ禅問答みたいになっちゃうんで。プログレとは何かを考え続けるのがプログレであるとか。プロレスとは何かっていうののパクリなんですけど(笑)。

ただ僕が思うのは70年代にプログレと呼ばれていたものを、今にそのままスライドさせたのがプログレだと個人的には思ってるんですよ。広い意味ではレディオヘッド(※66)とか、ああいうメインストリーム系も一種のプログレととらえてもいいし、ノイズ系をプログレの一種としてもいいんだけど、ショップとしては何でもかんでもってわけにはいかないじゃないですか。やっぱりジャンルとしてのプログレをある程度規定していかないと、ほんとにキリがなくなっちゃうし、ショップとしてのカラーが逆にぼけちゃう。

そういう意味ではアヴァンギャルドも含めての様式美としてのプログレみたいなところになってるような気がします。良くも悪くもっていうところもあるかもしれないですけど。ただ変な話、アヴァンギャルド系ですら様式美してるというか、70年代にアヴァンギャルドだったヘンリー・カウが様式として受け継がれて伝統化している。それこそプログレは伝統芸能だってみうらじゅん(※67)さんが言ってましたけど。言葉通りにとらえれば70年代はほんとにプログレッシヴだったと思うんですよ。

同じプログレでもクリムゾンとイエスでは音楽性も違うじゃないですか。音を指すものではないっていう分、プログレを規定するのが難しいんですね。概念みたいなとこにいっちゃうと、それこそ哲学的な議論になっちゃうので。音楽として楽しむものだと思うし、音楽に求められるものが全部ある、カッコいいとか、美しいとか、静か、激しい、あらゆる要素が全部入ってるのがプログレッシヴ・ロックだと思ってるんですよ。

P:私もなんか、今聞いてすごく思いました。

中:ミュージシャン的な視点で聴かれる方もいるとは思うんですよ。音楽的なもの、変拍子とかコード進行が特殊なのがプログレだとか。聴き方も自由で全然構わないんですけども、ただ、これからプログレに入門していただくのであれば、強制はしないですけれど、極端なところから入るのも悪くないですけど、出来れば5大バンドからブリティッシュ大物系にいって、ユーロ・ロックの有名どころを聴いてみて、その中から自分の好きなところに突っ込んでいくっていうのがいいんじゃないかな。

国別での聴き方、イタリアが気に入ったとか、ジャーマンが気に入ったっていうのであれば、そこから突っ込んでみるとか。あるいはジャンルで、ジャズ・ロックがカッコいいなとか。フレンチ・ジャズ・ロックでマグマという大山脈があるので、気に入ったのであればそこから掘っていくとか。ブリティッシュ・ジャズ・ロックだったらカンタベリー系とか。聴き方はほんと自由です。楽器にこだわるとかね、

お客さんにいるですよ。廃盤コレクターの方だと、何が何でもメロトロン(※68)とかね。メロトロンが入ってるものをとにかく集めるとか。ヴァイオリンとか、フルート、サックスでもいいし。特殊な楽器が入ってるのがプログレの魅力の一つかなと。ロックと何かの融合ってのがプログレの根本だと思うんですけど、クラシック、ジャズ、現代音楽、フォーク・トラッドがロックといろんな形で融合して、複数組み合わせたりしてるんで、楽器編成もクラシックに寄ったりジャズに寄ったり、魅力の一つではあるかもしれないです。

「プログレとは何かを考え続けるのがプログレである。プロレスとは何かっていうののパクリなんですけど」

●店長として

中:高校時代の夏、クソ暑い日に冷房もない僕の部屋でひたすらレコードを聴かせて、プログレに乗ってくれた漫画研究会の友だち、いまだにプログレ聴き続けてくれてて、お店にも来てくれるし、ライブもいっしょに行ってくれるんですよ。すごいありがたいなと。プログレ友だちっていうかね。

P:お店の商品の説明、ポップって全部中島さんが書いてるんですよね。

中:ああ、そうですね。読みづらいでおなじみなんですけど(笑)通称、中島フォントと言われてまして(笑)。

P:(笑)・・・前回お店にお邪魔した時に、「ウルガ」(※69)っていうモンゴル映画のサントラを買ったときに、中島さんが、ソ連の有名なミュージシャンの誰々がって(説明してて)、すごーく知ってるんだと思って。

中:新譜に関しては全部聴くようにしてます。ただ段々忘れちゃうんで、タグとかにコメントとか書いておいて、どういう音で何年に出たもので、っていうのをわかるようにはしてるんですけどね。お客さんから〇〇ありますかって訊かれた時にぱっと出せるように、把握しとかないといけないんで。

初心者のお客さんのほうがありがたいというか、おすすめ甲斐がある。なるべくお話出来ればするようにして、どんなのがいいのか、とか。お客さんが手にどんなものを持ってるかで、このお客さんはこういう系のリスナーなのかなと思って、店内でかけてるCDを変えてみると、お客さんから「これ、なんですか」って。

P:すごい、読みがドンピシャで当たる!

中:狙い撃ちが成功するとすごいうれしいですね(笑)。常連さんで分かってる人はいいんですけどね。

P:私が感動したのが、初心者だとマニアックなお店ってすごく入りにくいんだけど、それが全然無くって。中島さんの人柄なんですかね。

中:ありがとうございます。ほんとは深く広くが欲しいんですけど、個人のマニアであれば絞って深掘りが出来るんですけど、ショップに立ってると新譜聴きが中心になるし、広く深くを目指してるんだけど、お客さんの方が深いところは深いので。新譜に関してはいいものをセレクトしておすすめして、買っていただいてという。ここに来れば物はあるし、ライヴのチケットも売ってるし、ニュースもあるし、そういう情報基地にしていただければなあと。

昔はオフ会の集合場所にしてもらったりとか(笑)、地方から「クラブ・チッタ」(※70)でのライヴのついでにウチに寄っていただくという方もいます。海外のマニアの方もいらっしゃいますよ、韓国とか香港とかタイとか、アメリカ、イギリスの方もですね。海外にはショップっていうのがないらしくて、世界一の品揃えだと言ってくれるんですよ。10年探してたぜ、それがあった!って。

・・・ショップって対面販売の良さってあると思うんですよ、店員と話ができるとか。世間話をしつつ、いろいろ情報を交換したりして。厳しいマニアの皆さんの突っ込みに耐えつつ(笑)。でも仕入れれば即買ってってくれるし。

通販とか配信とか全盛になってきてるご時世ではあるんですけれど、ショップが生き残るには、特化してくっていうか専門化してくしかないと思うし、対面販売の良さっていうのを活かしていくしかないのかなって。だから、なるべく親しみやすく(笑)明るく楽しい感じがいいのかなって。

ヘヴィ・メタル好きな少年だった中島さんが友人や先輩から受け継いだプログレッシヴ・ロックという一大音楽財産を現在CDショップという形でより多くの人々に継承し続けている。マニアックな印象のあるプログレを扱う専門店の店長とは思えない、気さくなお人柄の中島さん。ショップから見たプログレ界について等、「売る立場」ならではの興味深い話をお聞きすることができました。

●WORLD DISQUE 中島さんが選ぶプログレアルバム

①KING CRIMSON / In The Court Of The Crimson King (3CD+Blu-ray/DGM) (U.K.’69)

5大バンドはきりが無いので、1枚ならこれ。最初でほぼ全てをやってしまった究極の名盤。ジャズ、フォーク、クラシック、そしてロック。歌詞世界含めて初心者を虜にする。私の高校卒アル写真はこれ手に持ってます。

②MAGMA / Live (Remaster Edition) (2CD/Seventh) (France ‘75)

マーキー誌のマグマ特集号レビューでの松本昌幸氏の名言、「これを聴いてダメならどれを聴いても無駄。」正しく、全ロック史上最高峰ライヴ盤のひとつ。マグマにハマると、いくらでも深堀り&広げが可能。登るべき大山脈。

③TANGERINE DREAM / Rubycon (CD/UMC) (Germany’75)

祝・来日。これがプログレなの?というジャーマン系も、初期フロイドの流れで見ればOKです。代表格TDの本作はエレクトロで有りつつ非常に情緒的かつ映像的、何度聴いても飽きのこない超名盤。現行リマスター、音良し。

④PIERROT LUNAIRE / Gudrun (CD/MP) (Italy’77)

ユーロ・ロックではダントツ人気のイタリア、好きなものはたくさん有りますが、初心者時代に、「この世ならざるもの」(中二病)を求めていた自分には、本作の1曲目が刺さりました。正に、月憑きピエロの神がかり。

⑤BRUFORD / One Of A Kind (SHM-CD/Belle Antique) (U.K.’79)

U.K.も超好きですが、こちらをクリアした(笑)おかげで、ジャズ・ロック、カンタベリー、アラン・ホールズワース等への道がひらけました。むしろナショナル・ヘルスの延長であり、今聴くと普通にプログレ。愛聴盤。

⑥HENRY COW / In Praise Of Learning (SHM-CD/Belle Antique) (U.K.’74)

所謂レコメン系ってのもハードル高そうですが、カンタベリーから分派した彼らから入ってみるのも良いかと。本作は、アルバムとしては破綻してますが、歌物の名曲収録で、これまた個人的な愛聴盤。この前衛も今や様式美に。

⑦天井桟敷 (J・A・シーザー) / 身毒丸 (SHM-CD/Belle Antique) (Japan’78)

さて、この辺りから暴走しますよ。マーキーに入ったあと、たまたま聴いて(再発の前)、ぶっ飛んだ、J・A・シーザーの最高傑作。和楽器も交えた、プログレッシヴなロック・オペラ、作は勿論、寺山修司。この魔境も底なし。

⑧新月 / 新月 (SHM-CD/Belle Antique) (Japan’79)

高校の授業を抜け出して、初めてワールド・ディスクの通販に電話して買った、新月の再発LP&CD。雪の降った日に学校のベランダに出て聴いていた“白唇”。日本のプログレの魅力が本作、特に“鬼”に凝縮されてます。

⑨KENSO / Self Portrait (LP/PAM) (Japan’87)

クソ暑い自宅の部屋で友人と聴いた“空に光る”体験は、今もかけがえのない良き思い出。その時かけていたのは本LP。当時廃盤だった1st と2nd からのベスト再発盤で、同曲のリミックスVer.は本盤のみの収録。舞うフルート。

⑩美狂乱 / 御伽世界 (LP/Belle Antique) (Japan’87)

祝・復活。新月と並ぶ日本プログレッシヴ代表格、私が初めて聴いたのが、このLP。伝説のドラマー、佐藤正治在籍時の’78/’79ライヴ集。日本のクリムゾン、という以上に、比類なき個性と魅力。CD化の予定は無し。

(インタビュー日時:2020年2月29日 東京・目白「WORLD DISQUE」にて)

WORLD DISQUE(ワールド・ディスク)

東京都新宿区下落合3-1-17メゾン目白102

03-3954-5348

http://www.marquee.co.jp/world_disque/d.w.frameset.html

営業日:月・金・土・日+祝日

(定休日は、祝日を除く毎週火・水・木曜日です。)

月・金・土曜→ 13:00~20:00

日曜・祝日→ 13:00~19:00

<おわり>

※54 ボンデージ・フルーツ

鬼怒無月のリーダー・バンド。1994年結成。

※55 高円寺百景

1991年、吉田達也により結成された日本のロック・バンド。フランスのプログレ・バンド「マグマ」の強い影響を受けている。

※56 吉田達也

日本のドラマー、作曲家。インディ・レーベル「磨崖仏」主宰。

※57鬼怒無月

日本のギタリスト、作曲家、プロデューサー。インディ・レーベル「まぼろしの世界」主宰。

※58 P.O.N.

1991年結成、ジャズ・ドラマー植村昌弘を中心としたインストゥルメンタル・バンド。

※59 大友良英

日本のギタリスト、ノイズ、フリー・ジャズ、ターンテーブル奏者、前衛音楽、即興音楽、パンク・ロック演奏者、作曲家、テレビ・映画音楽家、プロデューサー。

※60 グラウンド・ゼロ

1990年大友良英が結成したバンド。日本、アメリカ、イギリスで9枚のアルバムを発表。

※61 NHKの朝ドラ

2013年度上半期にNHKで放送された連続テレビ小説「あまちゃん」。劇伴音楽を大友良英が担当した。

※62 PROG FEST

1994年アメリカで行われたプログレ・ライブ・イベント。参加バンドは、フランスのハロウィーン、MINIMUM VITAL、北欧からはアングラガルド、アネクドテン、アメリカのKALABAN、ECHOLYN、EPISODE、さらにはオーストラリアからセバスチャン・ハーディが復活。

※63 セバスチャン・ハーディ

1973年にデビューしたオーストラリアのプログレッシヴ・ロック・バンド

※64 アングラガルド

1991年結成のスウェーデンのプログレッシヴ・ロック・バンド。

※65 アネクドテン

1990年結成のスウェーデンのプログレッシヴ・ロック・バンド。

※66 レディオヘッド

1992年デビューの英国のロック・バンド。ポスト・パンクやオルタナティヴ・ロックの大枠に、ポスト・ロックや電子音楽、ジャズ、クラシック、現代音楽などを混交した多彩な音楽性を特徴とする。

※67 みうらじゅん

日本の漫画家、イラストレーター。様々な事柄を独自の視点で紹介してきており、マイブームやゆるキャラなどは、みうらによる造語。

※68 メロトロン

1960年代に開発された、アナログ再生式(磁気テープを媒体とする)のサンプル音声再生楽器である。ムーディー・ブルース、ビートルズ、キング・クリムゾンらが使用したことで1960年代後半に認知度を高めた。

※69 ウルガ

ニキータ・ミハルコフ監督による1991年のドラマ映画である。ロシア人のトラック運転手と内モンゴルのモンゴル人羊飼いの交友が描かれる。

※70 クラブ・チッタ

神奈川県川崎市にある、主に音楽ライブを開催するライヴ・ハウス。プログレ系のライヴが多く開催されることでも有名。